過去を振り返る出来事があった

ちょうど21時頃、1本の電話がケータイにかかった。電話の主は唐突にしゃべり始めた。
「あーもしもし?お久しぶりっす!誰だか解ります?」
僕は彼の電話番号を登録していたのでもちろん誰だか解っていた。昔、ちょうど5年前に臨時教員で高等学校で勤務していたときの生徒だった。
「あ〜Y君だよね。元気?お久しぶり!」
「おっ、誰だか解るんじゃ!すげー嬉しい!今先生何しよるん?」
そうだった。彼は今僕が何をしているのか全然知らなかった。5年前、あまりの採用の厳しさに耐えられず、教員になることをあきらめて全く異業種に転職してからこちらから連絡をとることは無かったし、とりたいとも思わなかった。というか彼には転職したことは何かの折に伝えたと思うのだけどなあ。
彼との付き合いは長くて、最初はとある高等学校に赴任したときの生徒で、授業中に立ち歩くわ、喧嘩売ってくるわで色々と思い出に残る事件を週に1回は起こしていたのだけど、そんな問題がたくさんある中で1度だけ彼が私に「普通であることが出来ない」ことに対するコンプレックスを持っていることを打ち明けてくれて一緒に涙を隠しながら話をして悔しがったことがあった。何で僕にそんなことを打ち明けてくれたのかは後になってわかったのだけど。
予定の赴任期間が終わってからは彼との連絡は全くとっていなかった。その後1年くらい色々な学校を点々としてから今度は定時制高校に赴任した。その学校でも彼を見た。彼はニコニコしながら「お、○○じゃ!」と言った。
まあ、彼の顔は絶対忘れないくらい印象に残っているので誰だかすぐに解った。僕が退任した後に色々とあってこの学校に転籍かなにかしてきたらしい。
その学校では彼はずいぶん活き活きとしていて、前の学校の時のようないつも教員を付け離して、間違っていることが解っていながらあえて悪さをすることはしなくなっていた。
その学校でも直接教科担任することになったので彼とは色々話をした。
働きながら学校に行く中で大変なこととか彼女が出来たとかまあ色々。
彼が卒業するのも見ることが出来た。めちゃくちゃ嬉しそうだった。
彼の卒業を見送ってからすぐに僕は教員になるのをやめて、今の業界に転職した。教育界とは全く別ものの業界なので毎日が未体験の出来事だらけで、嵐のような日々が続いたり、つまずいて転んだりしながら今に至っている。実は転職するきっかけはそんな彼に影響を受けていたという部分がなきにしもあらずなのです。
とまあ、彼と昔の出来事とか近況を10分くらい打ち明け合いながら、片方で僕は転職するときの悔しさとかぼんやりとした希望とか確かに当時もっていた思いを振り返っていた。
「で、先生は今も熱血してるん?」
「どうかねえ。まあ、仕事は変わったけど今も熱くやってるよ」
それなりに歳もとったし理屈っぽくなったけど、がむしゃらに没頭できるのは今も昔も変わってないと思う。
会社にも新人さんが入ってきたしいろんな人事とかもあった。良いことも良くないことも色々あるんだけど熱くのめり込んで仕事をするのは、どんな仕事でも価値のあることだと思う。
あーなんかすげー書いた。手が痛い。
あ、そうそう、彼は最後に「俺2年前に結婚して10ヶ月の子供がおるんよ〜。先生結婚した?」とかぬかしやがった。うるさいまだじゃい。